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TCGデザイン論に関するブログ

【TCGデザイン論】 ハースストーンの戦闘システムの特徴と問題点

 

HSクローン元年

 

2015年11月のハースストーンの日本語化を皮切りに、

サイゲームスから今年6月17日にリリースされたShadowverse

タカラトミーから今夏リリースされるWAR OF BRAINSと、

”Hearthstoneクローン”と呼べるようなゲームシステムのデジタルTCGが次々と展開されている。

 

 

そこで今、あらためてオリジナルであるハースストーンのゲームシステムについて論考する。その特徴と問題点についてを簡単ながらまとめておきたい。

オリジナルが抱える問題点について語ることは、後発クローンたちが継承しやすい”遺伝病”を予見することにもつながるだろう。

 

 

というわけで 

 

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(雑なアイキャッチ

 

 

 

ちなみに自分はデジタルTCGだとハースストーンがいちばん好きだ。

元ネタである紙版のWOW TCG(2005-2013)のリリース時から追っかけていたので、これを含めればもう10年以上の付き合いになる。

 

「問題点」などと挑発的なタイトルになってしまっているが、ハースストーンのタイトルを攻撃したり貶めたりする意図はない。

 

この記事は今後さらなる勃興が予想される諸々のHSクローンに向けて、偉大な巨人であるHSのゲームシステムを(それが個別カードとのバランスによって成立していることを軽視して)無思考的にコピーする安直なクローンが登場しなければいいな、というTCGオタクとしてのものすごく狭小な願いから書いている。

 

 

2020-04-13 追記:

この記事は2016年、シャドウバースのリリース年に執筆された。

後のハースストーンの拡張アップデートによって、記事内に挙げた問題は軽減されたり、公式から一種の回答が提示されたものもある(たとえば急襲の常盤木キーワード化)。

今となっては陳腐化した部分もあるが、逆説的にそれらのメカニズムがどのような問題意識から生じたのかを読み解ける内容になっているとも思う。2016年当時に発された問題提起にたいして現在のデザインでどのような解決策が提示されているか、未来からの答え合わせとして楽しめるかもしれない。

 

 

ハント型戦闘+召喚酔いの組み合わせ 

 

いわゆる「ハースストーン型」の戦闘システムでは、先に盤面にミニオンを着地させたプレイヤーが、展開で遅れを取ったプレイヤーに対して一方的にマウントを取りつづける。

受け手の選択肢は常に攻め手の応手に縛られており、攻守の役割が固定化しやすい。

 

 

このゲーム性はHSが採用する2つのゲームシステムの相互作用、

攻撃側にのみ選択肢が与えられるハント型戦闘と、

攻守の役割が固定化されやすい召喚酔いの組み合わせによって起こる。

 

 

ハント型戦闘とは「攻撃側が」攻撃対象を指定できる 攻撃側優位の戦闘システムのこと

(その逆は「防御側が」指定できる防御側優位のブロック型戦闘)。

 

ハント型戦闘は互いの場を荒らしあう殲滅戦指向のゲームになりやすい。

対戦相手のクリーチャーを文字どおり積極的に「狩っていく」ゲーム性になる。

 

 

 

召喚酔いとは場に出たターンの攻撃を禁じる影響制限メカニクスのこと。

 

即時攻撃の制限は両プレイヤーに対応の猶予を与え、盤面を通じた戦略性とプレイヤー間の相互作用を強める。

またプレイヤーの思考の焦点を現在のターンに集中させる機能がある(即時攻撃が可能だと、常に返しのターンでどう反撃されるかまで予測して動くことが求められる)。

 

一方で召喚酔いのあるゲームでは、それがないゲームとくらべると攻勢の反転が起きにくくなる(盤面干渉にタイムラグが生じることで攻守の役割が固定化されやすい)。

 

 

ボード構築の不平等な選択肢

 

この2つのシステムの兼ね合いにより、HSの盤面展開は先に着地した攻め手のクリーチャーが受け手が出すクリーチャーに対して常に圧力をかけながら進行していく。

攻め手のクリーチャーは、受け手が出すクリーチャーが召喚酔いで動けないうちに一方的に「狩っていく」選択が可能だからだ。

 

HSでは攻め手のほうが常に選択肢が多く、展開で遅れた受け手のゲームプレイは盤面への応手という限定的な選択肢に縛られる。

すでに3/3が盤面に着地している場合、受け手に求められるのは3/4以上のプレイか3/3の除去に絞られ、手札の1/1や2/2はプレイの選択肢から消滅する。

出しても一方的に狩られるだけのクリーチャーは、たとえプレイできたとしてもボードの差を広げるだけの無益な選択肢になる。

 

 

MtGのようなブロック型戦闘であれば、防御プレイヤーは自分のライフと引き換えに「クリーチャーを守る」「反撃のための盤面を育てる」選択肢がとれるが、HSの戦闘システムではそのような選択肢は受け手側にはない。

 

 

攻め手がかならず受け手側よりも多くの選択肢を握る。受け手のボード構築の権利はかならず一度攻め手に渡る。3/3の対面に出した自分の2/2が生き残るかは相手が決める。

ボードクリアを行わない限り、HSでは受け手側に主体的な盤面構築が許されない。

 

 

もともと召喚酔いは攻守の役割を固定化しやすいシステムだが、ハント型戦闘と組みあわると、攻守間にある選択肢の格差からその硬直性はさらに拡大する。

 

 

※注意してほしいのは、ここでいう「攻め手」「受け手」というのは、「先攻」「後攻」を指しているのではないということだ。盤面に先にミニオンを着地させたプレイヤーを、ここでは「攻め手」と呼んでいる。

なので「先攻だが受け手」というのは成立するし、実際のゲームでもそのような展開はありふれている。だからこの記事ではハースストーンの《コイン》については言及していない。

コインが調整するのは先行後攻の格差であり、攻め手受け手の不平等ではないからだ(コインによってボードを取られた受け手が盤面構築の選択肢を手に入れるわけではない)。

 

 

 

ボードスイングのパッチとしての火力

 

そのためHSではテンポをとれる軽い除去、火力が全クラスに渡されている。たとえば武器はライフを支払って撃つ火力の一種とみなせる。

応手側はこれらのテンポで勝る軽量除去を駆使して、攻め手優位のボードを更地にした上で切り返す(スイングする)。これがHSのゲームバランスの基本構造になっている。

 

つまりHSではシステムが内包する攻守のワンサイドゲーム性に対して、軽量除去などの個別カードにその調整パッチ的な役割を担わせていることになる。

翻せばそれはボードスイングできるかを特定カードの引きに依存しているということでもある(引きムラによる運ゲー性の内包)。

 

通常の構築戦ではこのようにパワフルなスイング用のカードを潤沢に採用できるため、ハント型戦闘+召喚酔いが持つ本質的な硬直性については気づきにくい。

 

一方でアリーナなど使える除去が限定的なフォーマットになると、こうしたHSのプリミティブなゲーム性、すなわち攻め手の一方的なマウントと受け手の選択肢制限が色濃く現れる。

 

先に盤面に展開されるとあとは攻め手に延々とボードクリアされつづけ、受け手は一度も攻めに回れないままゲームが終わることが、特にアリーナではしばしばある。ライフ30対0のパーフェクトゲームも、アリーナでは別に珍しくない。

そのようなゲームでは、敗者は相手の盤面への対応に終始し、主体的に盤面にアクションをはたらく機会を一度も得られずに死んでいく。

 

参考リンク:

 

Lose Moreの戦闘システム

 

このように、一度優位に立った側が次の優位もどんどん手にしていくようなゲーム性をゲーム用語でWin More/勝ちっぱなしというのだが、この場合は劣位側の視点からLose More/負けっぱなしと呼ぶべきだろう。

戦闘システムに関して言えば、ハースストーンはLose More性の強い格差拡大ゲームと言える。

 

これがハント型戦闘だけで召喚酔いがなければ、あるいは召喚酔いはあっても防御側が指定するブロック型戦闘であれば、ここまで負けっぱなしなゲーム性にはならなかっただろう。この2つは相互作用によってLose More性を強化する。

 

 

もちろん勝ちっぱなし/負けっぱなしはそれ自体が否定されるべきものではなく、単にオプショナルなゲーム性の一つでしかない。

ただ「負けっぱなし」による主体的な選択肢の喪失や勝ち筋の排除されたゲームは、敗者にストレスフルなプレイ体験を刻む。そしてその不利益をもっとも強く被るのは、ほとんどの場合「負けて覚えていく」初心者である。

 

 

付けくわえると、その「負けっぱなし」をもたらす展開の遅れ/ボードスイープできるかという重要な決定が、HSではすべて序中盤のドロー運に強く依存しており、そのことも理不尽さを強調する要因になっている(自分ではどうしようもない事故性の内包)。

 

※ つまり「負けっぱなし」の理不尽さは戦闘システムだけでなく、HSが採用するリソース制度との兼ね合いによって拡大されている部分がある(後述)。

 

 

なにが問題なのか

 

フィードバックのある敗北はさらなるゲームへの没入を促すが、理不尽な敗北はゲームに参加する意欲を削ぐ。

重要なのは実際にゲームが理不尽であるかどうかではなく、それをプレイヤーが感じやすい構造になっているかどうかだ。

これは単純な運要素とは別レイヤーの問題だ。

 

そしてHSの戦闘システムは上記のとおり、プリミティブなレベルで強いLose Moreの理不尽性を内包していると自分は考える。

 

 

記事の主題に立ちかえり、「ハースストーン型」の戦闘システムの問題点が何かと問われれば、この選択肢の不平等=劣位に立つと主体的な盤面構築の権利が奪われることと言える。

 

主体的な盤面構築の権利が奪われるということは、ことシナジーが重視されるTCGというゲームジャンルにおいて、ゲームそのものへの主体的な参加権が奪われることに近い。

 

 

 

どのようなパッチが考えられるか

 

ではHS型の召喚酔い+ハント型戦闘システムが持つ「負けっぱなし性」に対して、後発のクローンも含めてどのようなパッチが考えられるだろうか?

 

 

たぶんTCGオタクならだいたいこういうことを考えるんじゃないだろうか。

  1. 受け手がもっとボードスイングしやすくする(選択肢制限が一方だけに持続しないように、攻守が容易に入れ替わるようにする)

  2. 受け手になっても主体的にボードを構築できるようにする(選択肢制限そのものを弱める)

 

 

たとえば後発のクローンであるシャドウバースが採用したシステムを見てみると、進化システムは前者の文脈、アミュレットは後者の文脈で考えられる。

 

進化……2マナ相応のサイズアップ+相手ミニオン限定の速攻殴り返しは受け手の切り返しを確約し、

アミュレット……攻撃されないパーマネントは相手がボードを握っている状況でも攻撃対象になることがないため、後出しで盤面に投げこんで主体的なボード構築の起点にできる。

 

これが負けっぱなし問題に対する完璧な回答となるかはさておき、後発は後発なりにオリジナルが抱えるLose More性にたいしてシステムレベルでのテコ入れが可能だと分かる。

 

 

1.受け手がボードスイングをしやすくする

 

スイング性強化の方向性であれば、進化のようなミニオン限定の即時殴り返しをシステムレベルで付与するのがいちばん明確でわかりやすい。

だがあまりにも大量に配るのであればそのゲームは最初から召喚酔いを採用するべきではない。

 

 

また進化はマナと別のリソース(EP)を消費して行う追加アクションでもある。

この視点から、クリーチャー召喚とは別のコストで追加のボードアクションが行えればスイング性が上がる、と考えることもできる。たとえばクリーチャーの召喚と呪文の使用に用いるリソースが別であるとか。

 

ボードスイングを要素分解すれば「ボードリセットと展開の両立」になる。リセットと展開を同じリソースで並立させなければならない場合、受け手は除去した後に残った限定的なマナで盤面を構築しなければならない。

 

そのため使用できるリソースが一元化している場合、手持ちのリソースすべてを展開に注げる攻め手がハント型+召喚酔いシステム下ではどうしても優位になりやすい。

 

システムレベルで戦闘システムを調整する場合、だいたいは盤面構成やクリーチャーの制限を調節する方向に意識が向かいがちだが、実はリソース設計に手を入れるというのが解決策の一つになりうる。

 

 

 

2.受け手になっても主体的にボード構築できるようにする

 

ボード構築の選択肢を維持するのであれば、アミュレットのような攻撃を受けないパーマネントを作ったり、あるいは盤上に前列/後列のような攻撃を受けない安全地帯の要素を加えるのがいちばんわかりやすい。

 

あるいは盤面以外に蓄積するリソースをいくつか用意し、召喚することでそれらを得る、というアプローチもある(たとえばSVのスペルブーストはこの文脈上といえる)。

とはいえ、これは厳密にはボードを構築しているのではなく「次ターン以降のスイングを予約している」手法に近い。

 

要は後出しでも攻め手に先制攻撃されないパーマネントが出せれば、受け手もボード構築に対して一定の主体性を保持することになる。

 

 

回避能力というパッチ

 

システムレベルではなく個別カードレベルでのパッチを考えるなら、軽い除去によるスイングだけでなくこういった後出しでも先制攻撃を受けない方向でもっとアプローチがあっていいように思う。

つまり先制攻撃を回避するキーワード能力(回避能力)をもっと設計してカジュアルに配布するという方法だ。

 

もちろん回避能力ならすでにHSにも隠れ身(SVでは潜伏)があるが、隠れ身は攻撃のみならず呪文まで避けてしまうので回避能力としては強すぎ、そのせいでカジュアルには付与できない問題がある。

除去避けの追加クロックとして攻め手も利用できるので格差調整にならないし、《動く鎧》のようなシステムクリーチャーと相互作用のトラブルもある。

 

なので隠れ身よりも少し弱く、よりカジュアルに付与できる回避能力を設定するといいんじゃないかと思う。数ターン限定かつ攻撃からのみ守れる隠れ身、ぐらいの弱さでいい。

 

 

たとえばMTGには潜伏という回避能力があるのだが(この流れで出てくるとシャドウバースのヤツとすごく紛らわしい)、これをHS風に翻訳するとこうなる。

 

潜伏(このミニオンは、それより攻撃力が大きいミニオンには攻撃されない)

 

能力名は警戒でも俊敏でもなんだってよい。

完全な回避能力ではないが、これぐらいの弱さが広範に付与しやすくてちょうどいいんじゃないかと思う。

 

回避能力はバフと組みあわさると対処困難なファッティを作るのが厄介だが、潜伏のいいところはそのようなトラブルを生み出さないことだ(強化されるほど効果がなくなる)。

 

このような能力がカジュアルにもっとあれば、後出しでサイズが劣るミニオンを展開する(そして次ターン以降のボード構築の起点にする)、というプレイが選択肢としてより有用になりうる。

 

 

またこの種の回避能力が面白いのは、盤面の支配力=ミニオンのスタッツという単純な図式に揺らぎや幅を与えてくれる点だ。ボード上での評価軸をミニオンのサイズ以外で新たに設計できるようになる。

回避能力がカジュアルにあれば、サイズの大きいミニオンと小さいミニオンが併存して殴りあうような盤面が生まれやすくなる。つまりダメージレースになる展開がより多く発生する。

 

それはほとんどのゲームが殲滅戦で進行するHSのプレイ体験に広がりと多様性を与えてくれる。

 

 

 

とおもったけど、この潜伏だと挑発付与と組みあわさったときに盤面によっては相手が除去できなくてハーフロック状態になりうるね……。

 

となるとやっぱり1ターン限定で呪文は通るような弱い隠れ身を安価な回避能力として設計し、カジュアルに配布するのが個別カードレベルでは一番丸いのかなと思う。

 

 

まとめると……

 

ハースストーン型DCGが採用する「召喚酔い+ハント型戦闘」の構造上の問題、Lose More性に対しては

 

1.受け手がボードスイングをしやすくする

2.受け手がボードを握られていても主体的に盤面構築できるようにする

 

という2つの修正が考えられる。

 

1については、個別カードレベルだと「テンポに優れた除去」「限定的な即時殴り返し」などを広範に配布する、というものがある。

またゲームシステムレベルでの調整としては、副次的な方法として「リソース体系を変える(分化させる)」というアプローチもある。

 

2については、個別カードレベルだと一方的なハントから守る「回避能力」をカジュアルに配る、「ボード以外に蓄積するリソースを用意する」というのがある。

ゲームシステムレベルでメスを入れるなら、「盤面構成を変える(攻撃されない安全地帯を設ける・前衛後衛など)」というのが基本になる。

 

 

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 しばらくしてからSVの問題点も書きました: